日本で最も信頼できる良心的なレーベルのひとつだと感じていたorigami PRODUCTIONSから選曲依頼をいただいたときは、とても嬉しかった。8年間のレーベルの歴史を振り返りながらセレクションを進めていったが、どうしても収録したい作品が40曲をこえてしまい、定価は据え置いたまま2枚組にできないかという僕の相談に、快い返事をいただいたときも感激した。
揺れるエレピの心地よいメロウネス、繊細かつシャープに研ぎ澄まされたビートが生む“あわい” のグルーヴ。ジャズやソウルやファンク、ブラジル音楽からクラブ・ミュージックまでを愛し、ディアンジェロ〜エリカ・バドゥ そして Q・ティップ〜J・ディラの流れを汲み、ロバート・グラスパー・エクスペリメントと同時代を生きる、絶品のジャパニーズ・メロウ・ミュージック。160 分以上にわたって世界に誇れる日本のナイス・コレクティヴorigami の素晴らしい魅力をパッケージすることができたと確信している。
オープニングはミルトン・ナシメント「Ponta De Areia」のカヴァー。その気持ちよいグルーヴ感に身を委ねながら、エスペランサ・スポルディングも同じ頃リメイクしていたこの曲を取り上げることの、現代における(ブラジル音楽としてだけでなく)ジャズ〜ソウル〜クラブ・ミュージック的意味を感じてほしい。
OvallとShingo Suzukiには、2008年の『Place 54』が大好きなアルバムで、Mellow Beatsコンピにもフィーチャーしていたフランスのジャジー&メロウなライヴ・ヒップホップ・バンド、ホーカス・ポーカスと親交の深い日本人アーティストがいる、と聞いたのをきっかけに興味を抱き、2000年代後半に多少飽和状態にあったジャジー〜メロウ・ヒップホップという文脈をこえて、惹かれるものを感じた。僕はホーカス・ポーカスをフィーチャーした「Supalover」はもちろん、「Multifacette」のBlanco Niceによるフランス語のナレイションを聴くだけで、何となく嬉しくなる。
この『Free Soul origami PRODUCTIONS』の選曲に際して、最初に聴き返したのはmabanuaの『Done Already』だった。そのことは、このコンピレイションのトーン(通奏低音)とヴォリューム(曲数)を決定づけていると思う。僕はFree Soulと共にMellow Beats的な音楽性にもフォーカスしたくなってしまったのだ。ソウルクエリアンズ〜J・ディラ以降を感じさせるビート・メイキング/サウンド・プロデュースはmabanuaの真骨頂だが、近年の彼のそうした枠さえもこえた多彩なめざましい活躍は、皆さんご存知の通りだろう。僕はやはり”ディアンジェロ以降の”と表現したくなってしまう、ジェシ・ボイキンスやニコラス・ライアン・ギャントを起用するそのヴォーカル趣味にも着目してセレクトしている。女性ヴォーカル曲では、エリカ・バドゥにも通じるような気だるくジャジーなメロウネスを意識していることも付け加えよう。
45 a.k.a. SWING-Oは、2007年のorigami PRODUCTIONS立ち上げの当初に、推薦コメントを寄せさせてもらう機会があったのが懐かしく、今では必然と感じる。ソウルとジャズ、ときにはラテン〜ブラジリアン、そしてグルーヴとメロウネス。東京の音楽シーンを”黒く”する男。今回はマイゼル・ブラザーズのスカイ・ハイ・プロダクションズ的な高揚感や、アーバン・メロウでサマー・マッドネスな情感によって、Free Soulファンのファースト・インプレッションを高める役割を果たしてもらっている。
thirdiqには僕の監修・選曲している音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」で、これまで何度となく世話になり続けている。今は亡きNujabesが絶賛していたのも忘れられない。中でも時が止まるほど好きな「4a.m.」(いや、時の流れる音さえ聴こえそうなほど、と言った方がいいかもしれない)は、余韻を大切にしたいエンディングに、と最初から決めていた。
Kan Sanoは今、最も脚光を浴びているミュージシャンのひとり、と言えるのではないだろうか。今年リリースされた『2.0.1.1.』は、個人的にも2014年に入ってよく聴いている日本人アーティストのトップ5に入るかもしれない。その現在進行形の輝きをこのコンピレイションにも、という気持ちを託して、ひとつのアルバムから4曲も選ばせてもらった。リリカルなピアノも、気だるくメロウなグルーヴも、フューチャリスティックなジャズも素晴らしい。
そして2009年から2011年にかけて毎月リリースされ、凄いなと感じていたlaidbookプロジェクトからも、たくさんのトラックをセレクトさせていただいた。これぞorigami PRODUCTIONSの底力・総合力。ちょっとした小品にも彼らのアイディア、音楽愛がさざめいている。コモン「Resurrection」のカヴァーでのアーマッド・ジャマル「Dolphin Dance」や、「Outro〜Theme From The Beginning〜」でのボビー・ハッチャーソン「Montara」に象徴されるように、ヒップホップ・ジェネレイション(ロバート・グラスパー・エクスペリメントの面々がそう言われるのと同じ意味合いで)ならではのジャズ・センスが滲んだりする瞬間が、僕はたまらなく好きなのだ。
最後にサブタイトルについて一言。僕が選曲しながら何度も、思わずくちずさんでしまっていたフレーズが、ロウレル・サイモンのこれだった。コモン(&シャンテイ・サヴェイジ)やジャネイもサンプリングしていたが、マッシヴ・アタック、と思ってしまう自分はやはり彼らより上のレア・グルーヴ〜アシッド・ジャズ世代なのだろう。そんな両者の架け橋となれば、と編んだのが、この『Free Soul origami PRODUCTIONS』なのかもしれない。皆さんで一緒に、“Mellow Mellow Right On”とくちずさんでいただけたなら、コンパイラーとしては本望だ。
橋本徹 (SUBURBIA)
■ タイトル : Free Soul origami PRODUCTIONS ~Mellow Mellow Right On~
■ アーティスト : Various Artists
■ 価格 : 2,400 円+税
■ 発売日 : 2014. 9. 3
■ Cat No. : OPCA-1027
【収録曲】
[ Disc1 ]
1. Ponta De Areia / laidbook
2. Take U To Somewhere / Ovall
3. Inside Your Love / Shingo Suzuki
4. Him / mabanua feat. Tamala
5. Long Walk / Kan Sano
6. Mysterious Journey / 45
7. Interlude #2 / mabanua
8. I Need Your Music / Ovall feat. Hanah
9. Sunrise / Shingo Suzuki feat. Marina P and Blanco Nice
10. Bustle / mabanua
11. You Are Music / laidbook
12. Nothing Feels Better Than You / 45 feat. Jimmy Abney
13. Mystery / mabanua feat. Nicholas Ryan Gant
14. Resurrection / laidbook
15. Love Sick / mabanua feat. Eshe of Arrested Development
16. I Only Want You / laidbook
17. Sole Muzic / 45 feat. Suji Tap
18. Eternal Sunshine / Shingo Suzuki
19. Endless River / Kan Sano
20. Iae Pt.2 / laidbook
21. Moon Beams / Ovall
22. Outro 〜Theme From The Beginning〜 / laidbook
[ Disc2 ]
1. Multifacette (Poetry By Blanco Nice) / laidbook
2. The World Is Wideopen / thirdiq
3. I Hear The Music (Of The Next World Remix) / laidbook feat. Maru
4. A Letter From My Girl / 45
5. Until You Know / mabanua feat. Jesse Boykins III
6. Out Of Date / laidbook
7. Struttin’ / 45
8. Come Closer / Kan Sano
9. Holdin’ It Down (mabanua remix) / mabanua feat. Kev Brown
10. Mind Games (Done) / Ovall feat. Nicholas Ryan Gant
11. Dream About You / mabanua
12. Butterfly / laidbook
13. I Believe / 45 feat. Stephanie McKay
14. Supalover / Ovall feat. 20syl and David Le Deunff of Hocus Pocus
15. Que Chevere ! / 45
16. Song Bird / Kan Sano
17. N.E.E.T. / mabanua
18. Lucky Day / 45 feat. Ray Mann from The Ray Mann Three
19. 4a.m. / thirdiq